『神経理学療法を楽しもう!』
石黒 幸治 富山大学付属病院
日本における理学療法の歴史は、1965年8月に施行された「理学療法士及び作業療法士法」にようやく始まったと言っても過言ではなく、英国では19世紀後半にすでに理学療法が誕生したことを思えば、日本の理学療法の歴史は非常に浅い。本講演のテーマでもある神経理学療法においては、日本では神経生理学的アプローチをきっかけに整理すると分かりやすい。特にこの神経生理学的アプローチの代表格とも言えるボバースやPNFなどは、神経解剖や神経生理学的な研究に基づいて開発された治療技術とされていたが、治療理論や治療内容についての統一した見解は少なく、旧態依然として手探り状態であった。そのため、1966年のNU-STEP会議(Northwestern University Special Therapeutic Exercise Project)・1990年のⅡSTEP会議において、これらの神経生理学的アプローチに対する学術的評価を受け、臨床場面では姿を消していくことになる。そして、課題試行型アプローチ・認知神経運動療法などがEBM(evidence based medicine)に基づいた治療技術として体系化し、1996年のnudoによる脳損傷後の機能回復(可塑性)以降は、多くの科学的検証によって運動学習・運動制御理論が始まり、2000年以降はCI療法へと発展を遂げている。つまり、日本の神経理学療法にはサイエンス(science)の中に、アート(art)な部分も残しつつ発展してきた。
リハビリテーションのサイエンスとは科学的根拠に基づく治療法や評価方法、そしてこれに関わる理論やデータに関連し、アートとは患者一人ひとりに合わせた個別的なアプローチや治療者の直感や経験に基づく判断力を指す。サイエンスは時代に適合した考え方である一方で、アートは非科学性の技術であるかのような誤解を与える場合があるかもしれません。しかし、効果的なリハビリテーションを実践するには、これら二つの要素を統合することが重要で、つまり、EBMに基づいた治療法を基本としながらも、患者一人ひとりの状況や反応に合わせた個別性が必要で、柔軟に対応することこそが最適なリハビリテーションを提供することができる。
これらの神経理学療法は、主に脳卒中を対象としたものであるが、現実の神経理学療法では脳卒中ばかりでなく、パーキンソン病やギランバレー症候群などの神経難病(神経筋疾患)や脊髄損傷患者など、中枢神経障害から末梢神経障害まで多義にわたる。そのため、各学術団体からは、診療ガイドラインが作成され、日本理学療法士協会においても理学療法ガイドラインが作成され、標準的な治療が行えるようになってきている中で、先に示した個別性医療(オーダーメイド治療)の重要性から、症例報告から学ぶ!機会が増えた。
本教育講演では、日本における神経理学療法の過去から現在を整理しながら、難解とされがちな神経理学療法の魅力を伝え、神経理学療法の明るい将来が見えるようにしたい。
【略歴】
職歴
2000年 恵仁会 藤木病院 リハビリテーション科
2005年 富山県総合リハビリテーションセンター 富山県高志リハビリテーション病院
2006年 富山大学附属病院 リハビリテーション部
2021年〜 富山大学附属病院 リハビリテーション療法士長
学歴
2009年〜2013年 富山大学大学院 生命融合科学教育部 認知情動脳科学専攻(医学博士)
2007年〜2009年 富山大学大学院 医学薬学教育部 生理学専攻(医科学修士)
1996年〜2000年 富山医療福祉専門学校 理学療法学科
主な所属学会
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会(正会員)
日本ニューロリハビリテーション学会(評議員)
一般社団法人 日本神経理学療法学会(理事、専門会員A、専門理学療法士)
一般社団法人 日本基礎経理学療法学会(専門会員A、専門理学療法士)
等
【主な著書】
『PT評価ポケット手帳 第2版』(ヒューマン・プレス)
『極めに・究める・神経筋疾患』(丸善出版)
『PT症例レポート赤ペン添削 ビフォー&アフター』(羊土社)
その他、執筆・論文多数あり